外出プログラム ~ 兵庫県立美術館へ行ってきました 3

※前回までの記事はこちら※
外出プログラム ~ 兵庫県立美術館へ行ってきました
外出プログラム ~ 兵庫県立美術館へ行ってきました 2

7月の外出プログラムの記事で随分と引っぱりますが、今回が最後の記事になります。
今回は、4つあった設問の内、Q3とQ4についてお送りいたします。

『Q3.この絵を見ると、誰か、あるいは何かを思い出す。そのような作品はありましたか?』
『Q4.この絵、部屋に飾りたい!そのような作品はありましたか?』

この絵、誰かに似てるかも…?誰かを思い出す。○○さんのイメージかも? または、何かを思い出す。昔見た景色みたい…。三番目の設問は、そのようにイメージを喚起させられる作品があったか?というものでした。これもまた興味深い回答が寄せられました。

前回お送りした、Q1、Q2では他の追随を許さなかったシャガールとジョルジュ・ブラックの両名でしたが、今回はなりをひそめています。では、今回の設問では、どのような結果となったのでしょう? 今回は、印象派では特によく知られたルノワール、それから日本では人気の高いマリー・ローランサンの両名が回答の上位を占めています。マリー・ローランサンは、名前を聞いてぴんと来なくても、絵をご覧になれば「あぁ!」と思われる方も多いことでしょう。

また、この回答を作品別で見てみると、両名の作品がすべて人物画であることも特徴的です。やはり、作品を見て、自分自身の記憶と照らし合わせているところがあるのでしょう。圧倒的に、抽象画よりも人物画や風景画が回答に挙がっているのが興味深く感じられました。
メンバーたちの様々な面白い “連想” が寄せられましたので、ご紹介いたしましょう。

「神戸まつりのサンバを思い出しました」『踊り子たち(ピンクと緑)』ドガexternal_black
「宝塚歌劇団を思い出しました」『羽扇を持つ女』マリー・ローランサンexternal_black
「現代の女性政治家っぽい」『羽扇を持つ女』マリー・ローランサンexternal_black
「普段から愛犬を膝にのせているので、自分自身を見ているみたい」『庭で犬を膝にのせ読書をする少女』ルノワールexternal_black
「羊飼いの表情が今の疲れきった現代人の表情を表しているように思えました。今も昔も仕事は大変なんだと」『群れを連れ帰る羊飼い』ミレーexternal_black

そして、最後になりましたが、Q4の回答結果は以下のとおりとなりました。

Q4の設問は、部屋に飾りたいと思うような作品はあったか?」でした。きっとみんな自分の気に入った作品を選ぶ事だろう、つまり、Q1の「好きな作品はありましたか?」の回答と同じような結果になるのではないか…?と思っていました。

Q1では、シャガールが他の作家たちを大きく引き離して1位に挙がっていましたが、なんと、「部屋に飾りたいか?」となると、「作品全般」という意見は出ているものの、たったの1票です。強烈に気持ちを惹きつけられる作品と、自分が生活する日常の空間で一緒に過ごしたい作品というのは、また別のもののようで、たいへん興味深い結果となりました。

ここで集計結果をよく見てみると、シャガールと同じように「作品全般」で1票を獲得している作家がいます。アルフレッド・シスレーです。さらに、このシスレーは、作家別で見てみると堂々の1位にランクインしています。それに続いて、印象派と言えばすぐに名前が挙がる作家のひとり、モネが2位に入っています。

作品別で見ると、Q1のときと同じように、特定の作品に票が集まることはなく、メンバーたちの好みは分かれたようです。

「色づかい(空と川)がキレイで持って帰りたい」『モレのロワン川、洗濯船』シスレーexternal_black
「空と道や木の対比がおもしろく、リビングに飾れば晴れやかな空気になりそう」『マントからショワジ=ル=ロワへの道』シスレーexternal_black
「ここからの眺めが本当に良かったんだろうなと感じさせる。お花畑もとても綺麗」『ヴェトゥイユ、サン=マルタン島からの眺め』モネexternal_black
「レストランに飾ってそう。自宅でレストランを再現したい」『モンマルトルのミュレ通り』ユトリロexternal_black

名前の挙がった作品群を見てみると、なるほど、というところでしょうか、全体的に柔らかいタッチや色彩の作品が多く選ばれているように思われます。

今回訪れた、『印象派からその先へ』。28名もの作家たちによる作品数は72点にのぼり、大変見応えのある内容でした。そして、それらの作品を観たメンバーたちの感想も実に様々で、それぞれの感性や個性の違いを強く感じさせられました。

この印象派という大きな絵画の流れは、かつてのアカデミズムに傾いていた絵画に対する反発から生まれたと聞きます。現実に見たままを写実的に書き写すのではなく、その風景を目にした時の感覚や印象、一瞬の光の移ろいまでも表現しようという試みでした。この一連のムーブメントは、「ものの見方を変える」試みであったように思われます。

現代ではパソコンやスマートフォンなどで簡単に行われる画像処理。色彩の明度やコントラストの変更などを自在に行うことができ、私たちもそれを至極当然のこととして、それらの機能を使用しています。ですが、そのような機器の無かった時代、作家たちは自らの眼や手でその作業を試みたのではないでしょうか。さらに時代が進むと、キュビズムという流れも登場します。これは現代の機器に置き換えるのであれば、3D-CADの技術に相当するでしょうか。

現代の私たちが、当たり前のものとして享受しているこれらの「視点」。これは昔の作家たちが試行錯誤してきた成果なのでしょう。彼らもはじめは「異端」として批判にさらされてきたそうです。それが時間の経過とともに認知され、今では多様なものの見方のひとつとして受け入れられています。この新しい視点は多様性を生み出し、そしてその多様性はさらに豊かさへと繋がってゆくのでしょう。

多様性、という言葉を考えるとき、就労移行支援に通う私たちは、どうしても自分たちの抱える障害特性と、社会との関わり方について考えずにはいられません。軽度知的障害を抱える人、うつ病に苦しむ人、発達障害に悩む人。さらに、同じ診断名が下されていても、表れる障害特性はそれぞれにまったく違います。自分たちの課題とどのようにして向き合っていくのか。そして、社会とどのようにして関わっていくのか。このような取り組みを行う日々の中、メンバー同士だけでなく、スタッフの方々との関係も含めて、本当に毎日いろいろなことが起こります。気持ちの行き違いが生じることもあります。気持ちが通い合ったり、許し許されたりするようなこともあります。辛くなってしまうこともありますが、これこそが、私たちにとっての実践的な「学習」なのです。

考え方の異なる人間が複数集まれば、場合によっては反目・争いに繋がってゆくこともあるでしょう。しかし、そこで議論が生まれます。話し合うことによって、意見の交換がなされ、新しい視点を獲得することができるでしょう。これが多様性のもたらす豊かさです。

私たちは、この凝縮された空間でいろいろな経験をして、互いに成長し合い、やがては社会に出てゆくことになるでしょう。そして、小さい存在ながらも、自分が社会に参加することで、多様性のグラデーションをまたひとつ増やすことになるのであれば、その時こそ、私たちは自分をずっと苦しめてきた障害特性を、肯定的に受け入れることができるようになる気がします。

メンバーたちの様々な感想を見ながら、「あぁ、○○さんらしいなぁ」と微笑ましく思いつつ、ついそのようなことにまで想いを馳せてしまいました。心にいい刺激を与えてくれる、とても有意義な外出プログラムでした。

※絵画のリンク元は、すべて公益財団法人 吉野石膏美術振興財団(吉野石膏コレクション)です(一部メンテナンス中のようです)。

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外出プログラム ~ 兵庫県立美術館へ行ってきました 2

前回の記事から随分と時間が経ってしまいました。
7月の外出プログラムで、兵庫県立美術館へでかけた際のアンケート結果が非常に興味深かったので、お話させていただきたいと思います。

今回は、4つあった設問の内、Q1とQ2についてお送りしたいと思います。

『Q1.この絵好き!という作品はありましたか?』
『Q2.なんじゃこりゃ?変な絵!という作品はありましたか?』

相反するふたつの質問のようですが、「好きの反対は嫌い」あるいは「嫌いの反対は好き」とはちょっと考えにくいように思います。あるものに対して好意を抱くのも、不快感や違和感を覚えるのも、結局のところ、「何か自分の心に触れて、突き動かすものがある」という点では根底にあるものは同じではないでしょうか。そのような観点で、この2つの設問に寄せられた回答をまとめていきたいと思います。

作品別で見ていくと、不思議なことに、あまり突出した作品はなく、メンバーたちの好みはそれぞれに分かれたという感じでした。しかし、これを作品別ではなく、作家別で見てみると…

アンケート結果1

ご覧の通り、Q1・Q2共にシャガールが1位に入っています。これはまさに、冒頭で述べたとおりで、快不快に関わらず、メンバーたちの心に強いインパクトを与える作品が多かったのでしょう。Q1.に対しては、『色彩が鮮やか、美しい』、そしてQ2.についてはやはり『ホラー、こわい』という意見が多く寄せられました。

ここまでお話しすると、シャガールの独壇場のような感じがしますが、ちょっとここで公正な判断をすべく、作品の展示数に注目したいと思います。
この展示会でのシャガールの展示作品数は、なんと他の作家たちよりも格段に多い10点。この展示会の企画をされた方がシャガール贔屓だったのでしょうか。展示会のテーマが印象派だけではなく、その後に続く絵画も取り上げているとはいうものの、まるでエコール・ド・パリのシャガールが大本命で、印象派の作品群は彼を際立たせるための “前振り” に過ぎなかったのではないか…?などと邪推したくもなるような展示数の違いです。その点を考慮すると、他のどの作家よりもシャガールの作品が多く回答に上ったのは、なるほど納得のいく結果かもしれません(ちなみに、主だった印象派の作家で、作品展示数がシャガールに次いで多かったのは、ルノワール 7点、シスレーとピサロが6点、モネ 5点でした)。

と、そう考えてみると、ひとり気になる作家がいます。Q2.の2位に入っている、ジョルジュ・ブラックです。
このジョルジュ・ブラック氏、出展されている作品はたったの1点、『洋梨のある静物(テーブル)』という作品です(著作権上、画像を掲載することができませんので、リンク先をご参照ください)。ちょっと、Q2.の回答結果を作家別・作品別で見てみることにしましょう。

アンケート結果2

シャガールの絵を奇妙に感じた人は6名もいたのですが、では、どの作品を?となるとそれぞれが違う作品を挙げています。対して、ジョルジュ・ブラックの『洋梨のある静物(テーブル)』 external_black

-「どこが洋梨?」
-「洋梨もテーブルもわからない」
-「想像力が豊か過ぎる」

表題から想像されるものが全く描かれていない!という “裏切られた” 感でもあるのでしょうか。見事にメンバーたちの「変!」が集中した結果となりました。
ジョルジュ・ブラック『洋梨のある静物(テーブル)』は、あとの Q3、Q4 の回答にも出てきます。さらに面白いことに、「設問に関わらず、よく名前が出てきた作品」で集計をとってみると、やはりこの『洋梨のある静物(テーブル)』が見事に首位の座に輝いていました。

他の解答を見ていても、メンバーたちの個性がよく表れていました。また、同じ作品に対する意見でも、人が違えばまったく見方も違うということもよく現れていて大変興味深く感じられました。
例えば、カンディンスキーの作品『結びつける緑』external_black『適度なヴァリエーション』external_blackなどを観て、理系にも文系にも強いあるメンバーは「幾何学的なところが魅力的。観ていてワクワクする」と言い、10代のメンバーは「ポップアートみたいでかわいい」という感想を挙げています。
イラストを描くのが上手なメンバーたちの感想は、やはりまた他のメンバーたちとは観点が違いました。

「ありえない色同士が調和している」
(Q2.『シウラナ村』external_blackミロ に対して)
「描写が非常に細かくて、遠くから見ても吸い込まれそうな感覚がして新鮮だった」
(Q1.『睡蓮 external_blackモネ、『モレのポプラ並木』external_blackシスレー等 に対して)
「建物が多くて、色と構図がかっこいい」
(Q1.『ルーアンのエピスリー通り、朝、雨模様』 external_blackピサロ、
『モンマルトルのミュレ通り』 external_blackユトリロ に対して)

他にユニークな感想もありました。

「痩せたアル・カポネみたいで面白い」
(Q1.『パイプを持つ男』external_blackシャガール)
「薬(ヤク)におぼれたヴァイオリン演奏者」
(Q2.『逆さ世界のヴァイオリン弾き』 external_blackシャガール)
「生首かと思った」
(Q2.『ジョーの肖像、美しいアイルランド女性』 external_blackクールベ)

などなど…。

もともと絵画に親しんでいるメンバーも、特にそうでないメンバーも、それぞれに鑑賞を楽しんだようでした。

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外出プログラム ~ 兵庫県立美術館へ行ってきました 3

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外出プログラム ~ 兵庫県立美術館へ行ってきました

こんにちは。メンバーのらくでございます。

利用者の生活リズムを崩さないように…という配慮からでしょうか、JOTサポート神戸は祝日も開所していて、午前中だけではありますが、普段の日と同じようにプログラムが設定されています。お昼で終わるという気楽さもあって、祝日の通所にはどこかしらのんびりとした空気があります。
7月15日、海の日。この日もそんな、午前中のみという日で、それもいつもとは違う外出プログラムでした。遅れてやってきた梅雨の影響が心配される中、当日は見事に真夏の晴天。メンバーたちのはしゃぎぶりは予想以上で、道中はまるで小学校の遠足のようなにぎやかさでした。

県立美術館 チラシ

今回訪れたのは、兵庫県立美術館。展示内容は『印象派からその先へ』でした。
館内を集団で固まって行動するのも不自由なので、入館するなりその場で解散。あまり絵画に興味のない人は、ひととおり観てすぐに引き上げても良し。じっくり鑑賞したい人は、それも良し。めいめい好きな過ごし方をしてもいいということになりました。
と、このように書いてしまうと、「プログラムと言いながら、単に美術館に行っただけになるのでは?」と思われてしまいそうですが、そこはしっかりとスタッフの方たちの工夫がされていました。

事前にスタッフの方による、「印象派とは?」という簡単なレクチャーがありました。
現代でこそ評価が高く、特に日本では人気のある印象派ですが、その当時は芸術アカデミーから酷評されていたこと。見たものをそのまま忠実に再現するのではなく、描き手自身が見た印象・感覚を大切にした構図や色づかいがされているということ。そういった基本的な説明を受けたのですが、ここで、「ふーん」と受け身で終わらないのがまたJOTの良いところです。

『時代背景も知った上で鑑賞すると、もっと面白い』、と留学経験のあるメンバーが、より掘り下げた内容の補足レクチャーを申し出てくれました。
朝礼の時間を利用して、印象派が興った時代のヨーロッパ情勢や、印象派からその後どのように絵画のトレンドが移っていったのか、などをとてもわかりやすく解説していただきました。
さらに、『ただ漫然と絵を見るだけでは面白くない』、と簡単なアンケートも用意されました。

このように、スタッフの方たちだけでなく、メンバーのアイディアも加わって、今回の外出プログラムはとても充実した内容だったように思います。もともと絵画に興味のあった人も、あまりそうでない人も、意識をもって絵画を鑑賞するいい機会になったのではないか、と思います。

ちなみに、先程かるく触れたアンケートですが、設問は4つありました。

この絵好き! という作品はありましたか?

何これ、変な絵! という作品はありましたか?

何かを思い出す、誰かを思い出す…そんな作品はありましたか?

部屋に飾りたいな、と思う作品はありましたか

メンバーたちのキャラクターが感じられるような回答が多く寄せられました。次回は、その回答結果について書きたいと思います。

外出プログラム_写真

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